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レ・ミゼラブル

Les Misérables
直訳すると、哀れな人々、悲惨な人々。邦題では「ああ無情」が定番だ。

私が読んだのは新潮文庫版。岩波など、他の出版社でもあるが、洋もの小説は新潮が訳が新しく、読みやすい。

レ・ミゼラブル。
フランスの作家、ヴィクトル・ユーゴーによって書かれたこの作品。
5巻で構成されており、少々長い。
トルストイとは異なり、時には時代背景を描写しすぎる余り、冗長な感じを受けることもあるが、パリに慣れ親しんでいる人にはそれすら楽しいと思われる。

内容は題を直訳した、哀れな、悲惨な人々を扱っている。
有名なジャン・ヴァルジャンを中心に様々な人たちを描いてゆく。
それに絡めて当時のパリの雰囲気、思想、国のあり方を様々な出来事として登場させ、哀れな人々と政治の断崖、そして繋がりをも描いている。

読んでいるとパリジャンの浮浪児、ガウローシュに代表される心意気が読みとれるが、その裏に口を開けている、世の中の悲惨さ、冷たさ、無関心など、善悪両面が描かれている。

マブーフ爺さんのくだりを読んでいても、正直者が馬鹿を見る、といってもよいような描写がなされており、世の中とはいくら正直に生きていても仕方ないと思わせられる。

主人公である、ジャン・ヴァルジャンはミリエル司教と出会ってから、正直な人として生きていくことになる。
人知れず、様々な善行を積んでいくが、やはり人知れず、であり、世間の人には理解されず、もちろん自分からアピールはせず、パリの薄暗い雑踏の中に潜んでいる。
そして自分が育てている女の子、コゼットの成長とともに葛藤を抱き、それに立ち向かってゆく。
宗教的背景からか、宗教的ハッピーエンドで物語は終わるが、同じ人生を現実で歩むと恐らく孤独の中で死ぬこととなるだろう。

ジャビェール警部の死、そして物語の終わり方など、いろいろと無理があり、不自然なところはあるが、フランスの歴史などもある、多少暗い百貨店的な物語として面白い。
多少途中で退屈するかもしれないが、これもまたお勧めです。

レ・ミゼラブル (全五巻) ユーゴー 新潮文庫 # ISBN-10: 4102117016
# ISBN-13: 978-4102117019  87/100点 人生の奥深さよ

レ・ミゼラブル〈第1〉 (1967年)

アンナ カレーニナ

ロシアの巨匠、トルストイ。
初めて読んだ。
長い、が長さを感じさせない。

描かれているテーマはいろいろあるのだが、そのテーマを乗せて走っているのはごくごく普通の物語。
物語というよりも、人々の日常。
好きな作品に多いパターンだ。

トルストイは初めて読んだが、有名なのはうなずける。描写が素晴らしすぎるのだ。
全てのものの形容が素晴らしい。トルストイの感性の細やかさ、感受性の高さ、繊細さが感じられる。

今まで読んできた外国小説はいったい何だったのだろう?
これは訳者(私が読んだアンナ カレーニナでは木村 浩氏訳)の力も大きいのだろうが、トルストイは日本語に訳しても凄い。

テーマも多岐にわたる。
恋愛はもちろん、貴族社会、農村、それぞれに抱える問題、民族性、善悪と関連して宗教まで。
これほど多くのテーマが展開される小説もあまり無いと思う。

まさしくトルストイの代表作、人類の代表作とも呼べるのかもしれない。

アンナ・カレーニナ (上中下) トルストイ 新潮文庫 ト22 95/100点 全てが詰まっている

天を衝く

炎立つに引き続いて高橋克彦氏の作品。

岩手県北部および青森県東部、秋田県の一部を支配する南部氏。
そのなかには宗主の三戸を本拠とする南部氏、ともに同じ南部一族であるが、九戸を本拠とする九戸氏、八戸を本家とする八戸氏と大きく三つの力に分かれる。
そのなかの九戸氏の九戸政実を主人公とする作品である。

様々な戦いを経て、最終的には豊臣秀吉による天下統一の前に九戸政実が意地を張り、九戸城に立てこもるという筋書き。

政実が率いる九戸党が強いのは分かるが、政実が万能すぎる。
それならばなぜ天下統一をしなかったのか、というと南部氏の分裂を避けるためいろいろしてたら時間切れ、秀吉の天下となるが、政実は気にくわないから喧嘩を売る。

おそらく私は高橋克彦氏とはあわないのだろう。全てが主人公の手のひらの上で物事が動いていく展開がどうも気にくわなくてたまらない。

天を衝く 高橋克彦 全二巻 講談社  25/100点 万能なのに意地を張る。人が死ぬ。主人公の思想に無理があるような気がする

炎立つ

岩手に来て、歴史を読もう、ということで読んでみました。

昔は東北は蝦夷と呼ばれる人たちがいて、中央政権(京都)とは異なった政治が行われていたようです。一応名目上は従属しているという形で中央政権に年貢を出していた。

その蝦夷の長が安部氏。安部貞任(さだとう)と呼ばれる人物が当主の頃に前九年の役があり、岩手県を舞台にそれを描いた作品。
源頼義が陸奥守として赴任して戦いが始まるのだが、朝廷側の藤原経清らが蝦夷側に荷担し、貞任らとともに戦う。

その後安部氏は経清らとともに滅び、江刺周辺、奥六郡と呼ばれる地域は清原氏のものとなる。
清原氏の内乱、陸奥守に任ぜられた源義家ら朝廷側との駆け引きの中、安部氏とともに滅びた藤原経清の子孫、清衡が後を継ぎ、奥州藤原氏の誕生となる。
その後、源義経が誕生し、奥州との関わり、最後の自刃、藤原氏の滅亡、つまり蝦夷の支配の終焉までを描く。

読後感としては、作者の高橋克彦氏が岩手県出身であり、東北の歴史を刻んだものであろうが、作者が肩入れした側があまりにも理想的に描かれていて少々鼻につく。
作品を描くには動機付け、最後の締めが重要である。そこにどう持っていくかが負けた側を描いているのもあって難しいのだろう、そのためもあって蝦夷の誇りの部分が強調されすぎているし、戦いの進行も公平な目で見たものとは言い難いと思う。

作戦のため勝っていたし、もっと持ちこたえられたが、あえてもっと奥に退却したはずがそこで滅亡する、という急展開。勝っていたところしか描いてなかったのにいきなり負ける。よく分からない。
蝦夷の誇り、という大義名分のために歴史を曲げている、すなわちこれはフィクションなのだろう。
司馬遼太郎氏の作品と同様に読んで、それを歴史と認識するのは大きな間違いかもしれない。

フィクションとして楽しむのならばいいが、それを東北の歴史として認識するには難がある作品だろう。

炎立つ 高橋克彦 全五巻 講談社文庫  30/100点 作者の意図を感じすぎる。邪推しすぎかも?

陰影礼讃

一番好きな作家は誰か。
私の場合は谷崎潤一郎だろうか。
有名な随筆に陰影礼讃がある。
陰影礼讃は文庫で出版が二つある

陰影礼讃中公文庫

谷崎潤一郎随筆集岩波文庫 緑 55-7

どちらも同じ陰影礼賛であるが、収録されているものが違う。
中公文庫は

陰影礼讃
懶惰の説
恋愛及び色情
客ぎらい
旅のいろいろ
厠のいろいろ

となっているが、岩波の方は
「門」を評す
懶惰の説
恋愛及び色情
「つゆのあとさき」を読む
私の見た大阪及び大阪人
陰影礼讃
いわゆる痴呆の芸術について
ふるさと
文壇昔ばなし
幼少時代の食べ物の思い出
「越前竹人形」を読む

となっていて内容は異なる。そしてこれだけの内容量の違いは、字の大きさであり、岩波は小さく、中公は大きくなっている。


以前友人が家に来て夕食を共にしたとき、丁度蝋燭が余っていた。そこで電気を消して蝋燭で食事をしたことがあるのだが、そのときこそまさしく谷崎潤一郎が語る食事の情景であった。
ちらちらと揺らぐほのお、それに伴って火影もゆらぎ、椀の中はよく見えない。全てが白日の下にさらされる電灯の明かりと異なり、全てがあやふやな状態だ。

詳しいことは陰影礼賛に書いてあるので読んで貰うとして、言いたいことは「うまい」ということだ。
普段電灯の下で食事をするので一層違いが感じられる。
このときは陰影礼讃を意識していなかったのだが、普段と違う雰囲気の中食事することは、いつもよりも食事に集中し、より深く味わう。
電灯の下では視覚に頼って料理を推測するのだが、視覚があやふやなために、普段はあまり使わない嗅覚、触覚がより研ぎ澄まされた状態で料理に臨むことになるのだろう。
これは蝋燭さえあれば手軽に出来るので、是非一度試して欲しい。

また、何故仏様や僧侶はあんなに派手なものを身にまとっているのだろうか、恥ずかしくないのだろうか、などと以前から疑問であったが、それも陰影礼賛を読んで納得できる。

時代が変わり、世の中は変わる。しかしその地域に根付いて育ったものは、その地域にあったものが多い。
現代は谷崎潤一郎が書いていた時代からも随分とかけ離れてしまったが、それでもいまだにこの本に書いてあることが成り立つ部分は多い。
生活の習慣、そして日本が育ててきた美しさを知るには最適の本だろう。

谷崎潤一郎随筆集 篠田一士編 岩波文庫 緑 55-7 95/100点世界が広がる

陰翳礼讃 谷崎潤一郎 中公文庫 90/100点

幕末 写真の時代

こいつはなかなか面白い。
歴史が好き、もしくは日本の風景、建物に興味を持っている人には特に楽しめる。
幕末 写真の時代

この本は幕末に外国人によって持ち込まれた写真の技術の紹介、撮影者たちをメインに追ったものだが、やはりなんといっても面白いのはその被写体たちや当時の日本の風景、風俗が見られるところだろう。
もう本当のことを言ってしまえば本が面白いのではなくて写真が面白い。

普通に暮らしているとなかなか昔の写真を見る機会は無い。
自分の写真でさえなにか機会がなければそうなのだから、昔の日本の写真なんて更に見る機会が無い。
自分の写真ならば自分で持っているだろうけど、昔の日本の写真は一体どこにあるのだろう?
図書館などに行けばあるかもしれない。

と、話はそれてしまったが、これはお手軽に昔の日本の風景、そしてなんといっても”ちょんまげ”姿が見れる。
時折髪を伸ばして一度”チョンマゲ”を結ってみようかという衝動に駆られる私は時代劇の”ニセモノ”ではなく、地毛のリアル・チョンマゲをおすすめする。

そして時代劇のように新品の着物を汚したものなどではなく(例外もあるだろうが)、自らのアカが付いた(汚い表現、失礼)、生の着物。
それらがごくごく当たり前の世界。
この幕末という時代からすると外国のようになってしまった今、私たちの立場は撮影した外国人のようなものだろう。
そして登場。

将軍


本物です。写真です。
この人が日本の頂点に立って(色々な意味があるが)いたその人の顔かとただ衝撃。
まぁこの辺は個人差があると思うので受け取り方は様々でしょうが。
将軍の他にも大名まで登場します。
究極の贅沢品、というよりも貴重な機会は一般の人にはあまりないので将軍や大名が登場するのは当たり前なのですが、私は顔を見てあれこれ想像するのが好きなので随分と楽しめます。
そして有名人も登場。
福沢諭吉や勝海舟、坂本龍馬に木戸孝允、後藤象二郎、高杉晋作、新撰組の土方歳三、近藤勇などの歴史上の人物の顔を拝むことが出来ます。

そして初めて見たのですが落城した城の写真。
これは衝撃でした。
常識というか、今普通に生活していると綺麗なお城しか見ないのですが、落城した直後のお城の写真、戦争のすさまじさが伝わってきます。
ちなみにお城は会津若松城です。

そして風景。もちろんビルは無い。
本当に日本なのか?全く違う国のよう。これが日本のどこにいっても広がっていた光景だなんて嘘みたいな話です。

色々と想像力をかき立てられるこの本、こいつはおすすめです。
ただ、歴史にまるで興味が無く、チョンマゲふぇちでもない人にはあまり面白くないかも

幕末 写真の時代
小沢健志 編
ちくま学芸文庫
85/100点
想像力をかき立てる

美人論

美人論。別に私がどうこう言うのではなく、本である。
美人論
随分昔にタイトルが大胆なので購入し、読み終えた後しばらく人に貸していたのだが久しぶりに帰ってきた。

さて、タイトルは美人論、ピクッと反応してしまわないか?
しかし読んでみるとなんのことはない、ただの美人の定義の変遷と美人をとりまく環境、ひいては女の人の意識まで語ってしまおうという本で、まぁある意味美人”論”ではある。

まぁ期待していたようなこと(どんなことだ?)は書いていなかったのだが、まぁそこそこ面白い。
美人が国によって利用される、と書くとなんだか怪しい雰囲気が漂うが、国がコレラ撲滅の為に”衛生美人”を持ち出してくる、など昔から今に至る様々な美人が登場してくる。すべてがこの調子なので期待していたようなもの(?)ではない。

美しい人とはいったいどんなものかを追求するような本では決してない。
でもそれは各々の人が判断するものなのだろう。
不細工(凄い字だな)を好きな人もその人の価値観によって好きなのだから仕方ない(?)

”美人”という問題が問題だけに難しい。そのためか価値観などにはあまり字数を割かれていない。
読後感も、ふ~ん、といったものかな。

まぁまぁ面白い、かといって本気で読むものではないと思う

美人論
井上 章一
朝日文芸文庫
40/100点
豆知識のかたまりかも?

菊亭八百善の人々

宮尾登美子さんの本です。古本屋でハードカバーに惹かれて購入。
菊亭八百善の人びと
おすすめか?といわれると素直に「はい」とは言えないが、私の知らない江戸の粋の端が感じられます。

この本、ストーリーが面白いかと言われれば、私にとってはあまりストーリー自体は面白くもない。しかし全体を流れる雰囲気は面白い。

個人的にツボにはまったシーンは将棋を指しているシーンの「桂馬の高飛び歩の餌食」だの、「かんにん信濃の善光寺」といったどこかで聞いたことがある言葉たちであったりする。まぁ親父ギャグ(死語だのおっさんくさいだのなんだのといわれるかもしれないが、ツボにはまったものは仕方がない。
なんだかこういった古い言い回しの裏に隠れている当時の生活を想像し、そういった文化的背景、当時の常識がかいまみえたような気がして楽しい。
しかし料亭の話のはずであるが料理についての説明、描写はほとんど無い。それよりもむしろ料亭の飾りである古道具や掛け軸といったものの方に力が注がれているように見受けられる。しかしそれらはいずれも中途半端だ。
おそらく筆者の主眼はそういった物のことを描くのではなく、そのころの人々のドラマを描きたかったのではなかろうか。

しかし筆者が女性であるせいか、私には論点がずれているというか、強調すべきところが少し私の興味とずれているのは残念でした。
私の興味(趣味?)とあっているという点では谷崎潤一郎の「細雪」には遙かに及ばないと感じます。
どちらとも古い日本の日常(でもないか)を描いており、どういうストーリーかと聞かれると説明に困るような文ではあるが、読んでみると面白い。

この本は物語を読むものではなく、雰囲気、文化を味わうといった楽しみ方が一番かと思う。

菊亭八百善の人びと
宮尾登美子
新潮社
45/100点
暇が有り余っているあなたへ

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